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最高裁判所第一小法廷 昭和43年(オ)1246号 判決 1969年7月10日

上告人

石本

代理人

小川休衛

安永博

木村英一

被上告人

佐々木光子

代理人

清木尚芳

山崎忠志

主文

原判決を破棄し、本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人小川休衛、同安永博、同木村英一の上告理由について。

原判決は、本件和解について、その和解条項の文言によると明渡猶予を約定したかのようであるが、右和解条項の文言の解釈に当つては、被上告人等が本件建物の使用を開始した当初以来その和解成立に至るまでの経緯および本件和解成立以後の諸般の状況をも考慮に入れて検討すべきであるとして、原判示の確定した事実関係のもとでは、本件和解条項の文言と正反対に解すべき例外中の例外とする特別の事情があるとしたうえ、本件和解により賃貸借が成立したものと解するのを相当とする趣旨を述べ、被上告人の本訴請求を認容し、かつ、上告人の反訴請求を棄却していることが認められる。

原判決の判示するように、和解条項の文言の解釈にあたつてはその和解の成立に至つた経緯のみならず、和解成立に至つた経緯のみならず、和解成立以後の諸般の状況をも考慮にいれることは違法とはいえないが、本件和解は、訴訟の係属中に訴訟代理人たる弁護土も関与して成立した訴訟上の和解であり(もつとも、被上告人自身は、利害関係人として本人のみが関与しているが、この点については、とくに差異を設けるべきいわれはない。)、和解調書は確定判決と同一の効力を有するものとされており(民訴法二〇三条)、その効力はきわめて大きく、このような紛争のなかで成立した本件和解をその表示された文言と異なる意味に解すべきであるとすることは、その文言自体相互にむじゆんし、または文言自体によつてその意味を了解しがたいなど、和解条項それ自体に内包する、かしを含むような特別の事情のないかぎり容易に考えられないのである。

原判決も、この点について、原判示のような解釈は例外中の例外にかぎり許されるべきとする制約を付しているが、原判決の確定した事実関係のもとでは、いまだもつて、原判示のように本件和解条項の文言と異なる解釈をすべきものとは認められないのである。

そうだとすれば、原判決はこの点について、理由不備、理由そごの違法をおかしたものというべく、この点の違法をいう論旨は、理由があり、原判決は、破棄を免れない。

よつて、右の点について更に審理を尽くさせるため、事件を原審に差し戻すべきものとし、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(長部謹吾 入江俊郎 松田二郎 岩田誠 大隅健一郎)

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